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【商いのコト】鍵は ”ローカル” — インバウンド需要と2021年問題

二人の職人が語る「場づくり」(3)
最終回では、「外国人観光客」「インバウンド」や「旅行」「観光」「宿泊(ホステル、ゲストハウス)」などのキーワードを中心に、Rockhills Garden(ロックヒルズガーデン)渡邉さんと ON THE MARKS(オンザマークス)吉岡さんが見据える、これからの日本の観光について語ってもらった。(本文中敬称略)

ニーズを点から線で捉える考えをしよう

吉岡:インバウンドの話でいうと、個人的にはそもそも「2020年(東京五輪)に向けて」という感覚に違和感があります。確かに、五輪開催によって生み出される外国人観光客の増加は一つのチャンスではありますが、僕が一番「やっちゃいけないな」と思うのは、五輪の年に外国人が大勢来るからという考え(だけ)で施設やサービスを作ってしまい、五輪のあとに廃れさせてしまうこと。廃れさせないために重要になってくるのは、いかに作った場所を通じて、地域と観光客の関係構築をしていけるか。それによって(五輪のあとも)またその場所、その地域に人(観光客)が戻ってきてくれるかどうかが決まると思います。そういった意味では、2020年は「スタートの年」ですね。

Rockhills Garden 渡邉さん(写真左)とON THE MARKS 吉岡さん(写真右)
Rockhills Garden 渡邉さん(写真左)とON THE MARKS 吉岡さん(写真右)

渡邉:吉岡さんのおっしゃる「やっちゃいけないな」という点、私も同感です。

今なぜ世界的にゲストハウスが急増しているかというと、人との「コミュニケーション」「つながり」への需要が高まっているからだと思うんです。単純に宿泊施設へのニーズが高まっているわけではなく、ゲストハウスが持つ「人との出会い、つながりの場」としての価値を時代が求めているのだと思います。所得の高い人であっても、高級ホテルではなくゲストハウスに泊まることがあります。それはまさに、高級ホテルとは異なる価値をゲストハウスに求めているから。

人とのコミュニケーションが存在する場(写真提供 Rockhills Garden)
人とのコミュニケーションが存在する場(写真提供 Rockhills Garden)

何事もそうですが、ニーズを「点」として見てしまうと、その時々(これを)増やそう、減らそう、便乗して儲けようという動き方になってしまいます。それは、いまでいえば「外国人旅行客が増えるから簡易宿泊所を作って儲けよう」にもつながりますよね。

ですが、「点」を「線」にして時間軸を長くして見ないと、せっかく作った場所の価値が最大化されないまま、吉岡さんがおっしゃる通り「廃れ去って」しまうんですよね。ニーズのピーク(点)だけを見て、20年後、30年後に続く風景(線)を描かずに場をつくっても非常にもったいない。続いていくもの、続けていくもの、次につながるもの、という概念を持った場づくりという考え方をもつべきだと思います。

日本人がもっと国内を旅して魅力を発掘

吉岡:少し話は変わりますが、「日本人は(自分の国なのに)日本をあまり知らないのでは?」ということについて考えることがあります。もっと日本人が国内を旅して回って、国内を知らなければいけないと思います。せっかく外国から多くの人が来てくれるのだから、受け入れるだけでなく、この国を案内できるようになっていきたい。

よく旅行会社に置いてある観光パンフレットがありますよね。あのパンフレットに載っていない面白い場所が、まだまだたくさん眠っていると思うんです。地方、例えば石川県の中でも旅館がどんどんつぶれているエリアを自分で回ってみたことがあるんですが、野菜がすごく美味かったとか、そこにしかない美しい風景、誇るべき伝統工芸があったとか、「厳しいエリア」と思って行ったけれど良い発見が沢山ありました。そういった魅力を日本人自身が発掘して、もっと外国の方々にも伝えることができれば、日本の地方を巡る観光の可能性はまだまだあるな、という一種の期待が高まる体験でした。ON THE MARKSが川崎という街の「ローカル」文化——クラフトビール、燻製の肉、そして音楽——をイベントのテーマとして取り上げることが多いのも、そんな体験があったからです。

川崎といえば「スモーク肉とクラフトビール」(写真提供 ON THE MARKS)
川崎といえば「スモーク肉とクラフトビール」(写真提供 ON THE MARKS)

2020年は「ローカル元年」

渡邉:私は電通グループで「オリンピック関連の事業組織」に籍を置いていた時期があるんですが、そこでも2020年は「ローカル元年」になる、という話が出ていました。世界中から人が集まる時に、日本の魅力を「ローカル」の目線で説明することが出来るかどうかがすごく重要になってくると。世界一の観光大国フランスの例を見ても、外からの誘客に成功している地域は「ローカル」の文化・慣習をとても大切にしている。フランスには全部で101の県があるのですが、それぞれ自分たちの地域に強い誇りを持っている。

吉岡:そういった意味では、人が来る魅力を生み出す鍵は、やはり「ローカル」にあるということですよね。「グローカル」という言葉に表現されている通り、人の動きはグローバルで、観光客は世界中から訪れる。そして訪れた土地の「ローカル」に触れる。「ローカル」はそこにしかないから、その場を訪れる価値がある。

歴史「ストーリー」を語る

渡邉:それから「ローカル」を伝える時に欠かせないのが「ストーリー」。これは観光や場づくりだけに限った現象ではないと思いますが、ストーリー、つまり歴史的背景を語ることの価値が高まってきています。

ちょうど新たなプロジェクトを手掛けさせていただいている、北海道の「新冠(ニイカップ)」という町があるのですが、新冠は名馬(サラブレッド)の産地として有名なんです。なぜ馬なのかというところが面白くて、これは19世紀の終わりに屯田兵がこの地の開拓にきた際、開墾のために馬力が必要とされたことが始まりなのだそうです。新冠の周辺には今もアイヌの集落が残っているのですが、その当時開拓民に新冠の中心から追われた原住民が移住した結果なんですよね。こうした土地に紐づく歴史を、ストーリーとして今後この地を訪れてくれる観光客に語っていきたいと思います。

新冠(ニイカップ)(写真提供 Fireplace)
新冠(ニイカップ)(写真提供 Fireplace)

光の当て方

渡邉:「観光」って書いて字のごとく、「光のあたっているところを観る」。逆に言えば「光の当て方」を考える産業。

日本の観光産業史を簡単に振り返ると、まず高度経済成長期に、レジャー活動の充実、地域振興による内需拡大を目的に「リゾート法(総合保養地域整備法)」という法律が施行され、高速道路の整備と共に、人々は車で各地のスキー場、キャンプ場、その他レクリエーションや保養地を訪れることができるようになりました。その結果、どこに行っても同じような成功モデルをコピーした大規模観光・レジャー複合施設が各地に生まれてしまった……。今振り返ると、その時失われた「ローカル」は多かったのではないかと。

吉岡:だからこそ改めて「ローカル」を再発見していきたいですし、日本人として、また、各地の「ローカル」人として、自らに問いたいですね。「世界から人が来てくれたとき、一体何に光を当てたいのだろう?」と。

Rockhills Garden
神奈川県川崎市幸区中幸町3-8-1
044-589-4333

インタビュー:伊藤 友里
文:つなぐ編集部
写真:小澤 亮
写真協力:Rockhills Garden/ON THE MARKS

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