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【商いのコト】“喫茶文化” とともに、世界へ届ける日本製のコーヒー器具

「海外の家庭、個人に、もっと日本のハンドドリップの文化とすぐれたコーヒー器具を広めたいという想いがありました」

つなぐ加盟店 vol. 16
KURASU KYOTO 大槻洋三さん

大槻洋三さん (店内にて)
大槻洋三さん (店内にて)

両親から学んだ、日本の”喫茶文化”を広めたい

「僕がハンドドリップで丁寧に淹れた一杯のコーヒーを、カナダの友人が喜んでくれたんです」

店主が一杯一杯を丁寧に淹れたコーヒーを味わう、日本では馴染みのある喫茶店。カップにコーヒーが注がれるまでの様子を眺め、沸き立つ豆の香りに心躍らせ、空間に流れるゆるやかな時間を楽しむ体験も含めたものが、日本ならではの”喫茶文化”と言えるだろう。

海外での原体験から、この独特な文化をもとに京都で生まれたカフェがある。「KURASU KYOTO」はハンドドリップを中心にコーヒーを提供するカフェであり、日本製のコーヒー器具を展示販売する専門店だ。

「画家だった父の仕事の関係で、4歳から10歳まではアメリカにいました。帰国後、両親が喫茶店を京都で経営していたことから、日常的に親がコーヒーを淹れる姿を見ていました。両親の影響や自身の原体験をもとに、『日本の”喫茶文化”をもっと広めていきたい』という想いで店舗が生まれたんです」

2016年8月にオープンしたばかりの「KURASU KYOTO」。店内にはカウンターとチェアが備え付けられているものの、基本はスタンディング・スタイル。
2016年8月にオープンしたばかりの「KURASU KYOTO」。店内にはカウンターとチェアが備え付けられているものの、基本はスタンディング・スタイル。

そう話すのは経営者の大槻洋三さん。しかし、会社の創業は日本ではなくオーストラリア。しかも、いきなりコーヒーだったわけではなく、はじめは生活雑貨のオンラインショップだった。一体どういうことだろうか。

元証券マン、消費者としての目線が生んだ「KURASU」

創業以前は、都内の証券会社に一会社員として勤めていた大槻さん。「今の業種ではない、新たなことに挑戦しよう」と退社したが、何をするかは決まらぬまま、国内で転職活動を進めていた。そんなタイミングで、当時会社の同僚だった奥さんのオーストラリア転勤の知らせが届き、状況は一変した。

もともとあった「今とは違う場所で、違う仕事をしてみたい」考えと「海外で何かをはじめるのは楽しそう」という純粋な好奇心が重なった大槻さんは、奥さんと一緒にオーストラリアへ渡ることにした。2013年のことだ。

拠点はシドニー。心機一転の生活がはじまった。移住した当初は、どんなビジネスをはじめるか具体的に決まっていなかった。しかし現地の文化に触れ、新しく出会う人たちとの交流を通じてさまざまなアイデアが浮かんできた。

「仲良くなったオーストラリア人が、たまたまクリエイティブ系の仕事をしている人が多かったんです。彼らと話していると、日本の製品の性能やデザインの評価が高いことに気づかされました」

「シドニーに住んで3年経ったので、今後、また奥さんの転勤もあるかもしれません。だからこそ『転勤の多い奥さんに合わせた働き方を』と考え、オンライン展開からはじめました。世界のどこにいても大丈夫なビジネスを築きたかったんです」(大槻さん)
「シドニーに住んで3年経ったので、今後、また奥さんの転勤もあるかもしれません。だからこそ『転勤の多い奥さんに合わせた働き方を』と考え、オンライン展開からはじめました。世界のどこにいても大丈夫なビジネスを築きたかったんです」(大槻さん)

新聞や本で知識としては知っていたものの、実際に友人の口から”生の声”を通して実感できた日本製品の評価の高さ。さらに、大槻さん自身がシドニーに住んだことで、日本とオーストラリアの物流の違いにも気づくことができた。

「オーストラリアは土地が広大なせいか、日本ほど物流が発達していないんです。そのため現地で手に入る商品のバリエーションも限られていました。消費者として『あの商品が欲しいけど、すぐに買えないし手に入りにくい』ジレンマを常に感じていました」

そこで「だったら、自分でやってみよう」と考えはじめたのが、日用雑貨のオンラインショップ「KURASU」だった。オーストラリア人向けに英語対応し、日本国内から厳選したタオルや食器、リネンのシーツなどを中心に輸入販売をスタート。当時は、コーヒー器具も商品リストの一部でしかなかったそうだ。

顧客の声から生まれた「コーヒー器具専門店」

カフェスタッフには、京都やメルボルンで経験を積んだバリスタを採用。コーヒーの専門知識が豊富で、日本語と英語が堪能であるだけでなく、海外のカフェ文化にも精通しているため、国内から海外までの幅広いお客さんとのコミュニケーションに対応できる。
カフェスタッフには、京都やメルボルンで経験を積んだバリスタを採用。コーヒーの専門知識が豊富で、日本語と英語が堪能であるだけでなく、海外のカフェ文化にも精通しているため、国内から海外までの幅広いお客さんとのコミュニケーションに対応できる。

オンライン販売をはじめて1年ほど経ったある日のこと。さまざまな生活用品を販売する中で、コーヒー器具が店舗全体の売上の大半を占めることに気がついた大槻さん。日本のコーヒー器具の評価と需要を目の当たりにした。

ちょうどその頃、「ショップのブランド力がいまひとつ」といった悩みも抱えていた。「正直、自分でもブレているんじゃないか、と不安に感じることもありました」と話す大槻さん。商品が多岐に渡っているため、何を売っているショップなのか、はっきりしない感覚があった。

そこで、海外での需要が特に高い日本製コーヒー器具に特化することで、日本の良いものを届けるというメッセージが強化されるのではないかと考えるようになった。

低めのカウンターには、バリスタとお客さんが会話しやすくなるように、と設計意図がある。Squareは海外から来るお客さんのニーズに応えるために導入、在庫管理にも活用している。
低めのカウンターには、バリスタとお客さんが会話しやすくなるように、と設計意図がある。Squareは海外から来るお客さんのニーズに応えるために導入、在庫管理にも活用している。

生活雑貨店から「コーヒー器具専門店」へ。コンセプトを変える判断は正解だった。

現在では、オーストラリアに止まらず、世界50ヵ国へとお客さんが増加。それに伴い、流通システムも大きく変更した。以前は日本から商品を輸入し、拠点であるオーストラリアから届け先に配送していた。しかし、手間と配送費がかかるため京都にオフィスと倉庫を構え、そこから配送を一手で担うことにした。

同時に、世界中のお客さんやSNSのフォロワーから「今度日本を訪れるので、ぜひ店舗に行ってみたい」といった連絡が頻繁に届くようになった。

「お客さんとのやりとりから、実店舗の需要は高いと思いました。それにKURASUに関わる人の“顔”が見え、言葉を交わし、きちんと情報発信できる場所としての店舗は必要だと感じていました」

京都は抹茶やほうじ茶のイメージがあるが、意外にもコーヒー消費量の高い街である。全国的にも名を馳せる老舗の喫茶店も多く、最近では海外からの人気も高い。

そうした京都の町並みから、”喫茶文化”の可能性に改めて気づかされ「世界にもっと伝えていきたい」思いを次第に強めていった。

そんなとき、京都駅から徒歩5分圏内の空き物件があると知らせを受けた。京都駅から近く、目の前には外国人観光客が泊まるホテルもある好立地。即決だった。

そして、ついにカフェ「KURASU KYOTO」が完成したのだ。

コーヒー器具専門店だからできるカフェづくりを

コーヒー器具メーカーの中には、海外からの問い合わせに対応できていない会社も多い。その間に立って海外への流通を促し、販路を切り開くことも「KURASU」の役割の一つである。
コーヒー器具メーカーの中には、海外からの問い合わせに対応できていない会社も多い。その間に立って海外への流通を促し、販路を切り開くことも「KURASU」の役割の一つである。

店舗で提供するコーヒーのメニューは多彩だ。15時間かけて抽出された水出しコーヒーや、オーストラリアと日本各地のロースターが焙煎したスペシャリティコーヒーを月毎に入れ替えて提供するなど、大槻さんなりのこだわりがある。

「KURASU KYOTOは、オーストラリアと日本のカフェ文化の融合を意識しました。京都でありながら、シドニーでは主流の”コーヒースタンド”にしたのはそのためです。気軽に立ち寄れる、地元密着型のお店として定着してほしいですね」

店内には、日本製のコーヒー器具が所狭しと並べられている。棚にはデザイン性の高い国産のコーヒー器具が展示され、見るだけでも十分に楽しむことができる。そのため、コーヒーやラテを飲みながら店内を眺める客も多い。カフェでありながら「ショールーム」としての空間でもある。

「海外から訪れるお客さんは、現地で日本のコーヒー器具を直接見たり触れたりする機会は多くありません。ネットの情報だけでなく、実際に手に取ってもらい、その器具を使って淹れたコーヒーを飲んでもらいたい。

コーヒーを淹れている間に、バリスタに豆や器具に関しての質問ができます。あらゆる角度で、コーヒー体験のできる場にできればと思っています」

コーヒー器具専門店だからこその豊富な商品知識。さらに流通や海外での販売に対する理解を強みに、一般客だけでなくバリスタやコーヒー業者の来店も多いという。

紙カップのロゴは、大槻さんがデザインした。「くらす」の平仮名を崩したもので、日本らしさも残している。
紙カップのロゴは、大槻さんがデザインした。「くらす」の平仮名を崩したもので、日本らしさも残している。

ゆるやかに、しなやかに歩んでいく

今後は、オンラインのコーヒー器具専門店「KURASU」上で、日本各地のロースターが焙煎する豆のサブスクリプション(定期購入型)サービスを準備しているそうだ。同時に、京都の店舗「KURASU KYOTO」では、国内外のロースターやバリスタを招きコーヒーを淹れるワークショップなども開催予定だ。

オンラインとオフラインをうまく連動させ、コーヒー器具とコーヒー豆の販売も進めながら、さまざまなアプローチで日本の”喫茶文化”を海外に伝えていく。

コーヒーの「美味しさ」だけではない。「コーヒーを淹れる姿を眺める」「バリスタとの会話を楽しむ」といった、コーヒーをきっかけとした”総合的な体験”を提供することが、KURASU KYOTOが目指すところだ。

「海外では、コーヒーを飲む目的のために、機械で手早く抽出し量をさばくカフェは多いです。しかし、ハンドドリップで丁寧に淹れた一杯を片手に、ゆっくりとした時間を過ごす日本のスタイルは、飲むだけではない”コーヒー体験”があると思います。

コーヒーそのものだけでなく、そこにある空間、体験を大事にする”喫茶文化”が、コーヒーを楽しむ選択肢の一つとして知ってもらえたら嬉しいですね」

色んなアイデアはありつつも「精力的にビジネスを展開していく」のではなく、あくまで自分自身の生活とペースを大切にする大槻さんらしい生き方が感じられる。

「オーストラリアと京都の二拠点はこれからも変わりません。オープンしたてのカフェが落ち着いたら、あっちとこっちを行き来する予定です。ただ基本的には、すべて奥さん次第ですね(笑)。彼女の転勤に合わせて、ご縁のある地域とつながっていければと思います」

ゆるやかに時間をかけながらも、着実に日本の文化を発信する「KURASU」。大槻さんのしなやかな商いは、今後どのように歩んでいくのだろう。

Square_kurasu_mg_4901

KURASU KYOTO
京都府京都市下京区東油小路町552
075-432-7563

文:鈴木 沓子
写真:久保田 狐庵

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